映画 怒り その1

「怒り」
(2016/東宝)


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吉田修一の 小説「怒り」 の映画化作品。
やっと完成!
「悪人」(2010)のタッグ再び、監督は李相日。
9月17日公開。
↑TOP画像は篠山紀信撮影。映画撮影時に撮った為、役の顔のままとのことです。

@京成ローザ
千葉在住のS嬢と観ることにした為千葉まで遠征。

東京・八王子で起こった残忍な殺人事件。犯人は現場に「怒」という血文字を残し、顔を整形してどこかへ逃亡した。それから1年後、千葉の漁港で暮らす洋平と娘の愛子の前に田代という青年が現れ、東京で大手企業に勤める優馬は街で直人という青年と知り合い、親の事情で沖縄に転校してきた女子高生・泉は、無人島で田中という男と遭遇するが……。


冒頭、八王子の凄惨な殺人現場から始まる。
そこから、千葉・東京・沖縄と三つの都市が並行して描かれるのだが、いきなり海の上を走る小さいボートのシーン。
泣きたくなるように美しい沖縄の海。

おお、そこから来るか!?
うーーむ むむむ

吉田修一先生の原作はとにかく情報量がハンパない。
ボートに乗っているのは、高校生の男女。

地元の旅館の子辰哉と最近本土から島にやってきた泉。
泉は男関係にルーズな母親のおかげで転々とし、今回も名古屋から夜逃げ同然に沖縄に来たのだった。
そういう背景を全部すっ飛ばして、ひたすら美しい海だ!

この脚本よく出来てるわ。
枝葉を削ぎ落していき、キモだけを残したかんじ。(*後述)

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また、三つの都市(及び八王子の刑事)の場面をつなぐ編集も巧み。
次のシーンとリンクし連鎖して行くのがおもしろい。

拙ブログ 小説「怒り」 で書いた通り、昨年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭会場に、映画「怒り」のボランティアエキストラ募集のチラシがあった。
その辺のエキストラを集めて適当に撮るんじゃなくて、リアルゲイをエキストラに使うという、空気から”そのもの”の画を撮るってことね。

それによると、撮影その1「プールでのゲイパーティー」はいいとして、撮影その2「クラブに集う人々」。
「クラブに集う人々」・・・。
おそらく優馬と直人が知り合うシーンと思われ。
原作ではいわゆるハッテンサウナ。
今までの日本映画の流れだと、”ハッテン場”は”クラブ”に置き換えられるよねえ。
監督さんのやりたいことと、お金出す人の思惑とかしがらみとかいろいろあったりするんだよねえ、きっと。
やっぱハッテンサウナは描きづらいわよねえ。
「已む無し」なんだろうなあ、とチラシを見ながら思ったとです。

ところが映画はほんとに”ハッテンサウナ”だった。
赤い照明が妖しく光る、まさに今年のレインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)上映作品 「パリ 05:59」 のような雰囲気。
ご、ごめんなさい!「已む無し」とか言ってごめんなさい!

ここで優馬と直人は出会う。
部屋の隅にうずくまっている直人は、この画を思い出した。
ジャン=イポリット・フランドン「若い男のヌード」



直人にロックオンした優馬は、それまでの優し気なイケメン顔から一転、オラオラ系に攻めまくる。
激しいコトの後、顔を上げた直人の口からよだれが・・・。
あのよだれ、リアルなのか演出なのか? 演出だったらゴイスだよ。

ここから始まる優馬と直人の関係。
この二人に関わるシーンは、先のハッテン場も含めて 「ここまでやるんだぁ」でした。
削ぎ落した脚本だけれど、チロルが原作で一番好きだった二人のやりとり(小説「怒り」の記事ご参照)がちゃんとあって嬉しかったなあ。

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今作はオールスターの俳優陣が話題。
なのだけど、どの人もいつもの顔じゃない。それぞれの役の顔になってる。
妻夫木聡は、のび太でも祐一(「悪人」)でもなく、藤田優馬そのもの。
見るからに、都会に住むスタイリッシュなゲイの青年なのだ。
週に1・2日はジムに通って体鍛えてるんだろうな、みたいな。
優馬がよく着ているポロシャツの袖からのぞく上腕二頭筋がパンパン!その他胸筋もかなりマッチョ。
いつも青山の美容室でヘアカットしてて、ひげの手入れも怠らない感。

この映画は見ていて、「俳優さんってすごい・・・」と何度も思った。

宮崎あおいは、原作の愛子と全くイメージが違う。
最初にこのキャスティングを聞いた時、ないわーと思った。
(チロルの原作でのイメージは、陰気な柳原加奈子。愛子はぽっちゃりキャラなのだ)
ところが映画の中ではちゃんと愛子だった。
宮崎あおいは7キロ増量して全編すっぴんメイク。

ことほどさように俳優たちはみなクランクインまでにかなり役を作り込んで臨んだらしい。
ケン・ワタナビーはフォークリフトの免許を取ったというのには感心しながらも笑ってしまった。
ゴーアヤノはきゃしゃで繊細な直人の為に9キロ減量。
(ちなみにチロルの中の原作の直人は、柄本時生だった)

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しかし、しかし、終盤に出て来た水澤紳吾の怪演には参ったでござるよ。
マジ怖かった!
見てて座席から飛び上がりそうになった。
この人の顔が傷だらけだったのは、撮影までに自分で針金で傷作って来たそうな(怖!)

そういう”本気”がこの映画のどこにも感じられた。

→水澤紳吾が「怪奇恋愛作戦」(テレ東深夜ドラマ)の黴田(かびた)くんだったと知り、さらにびっくら!

怪奇恋愛作戦 DVD BOX
麻生久美子
東宝
2015-04-15


広瀬すずは監督に相当しごかれたそうで、いつもの一平ちゃんの広瀬すずじゃなかった。
広瀬すず、ここまでやるんだ・・・。

映画を見た後読んだ「小説怒りと映画怒り - 吉田修一の世界」の中に監督のコメントがある。

――どこまで背景として説明するか。泉は転々として沖縄に来たわけですが、母親の存在が彼女にどういう影響を与えているのか、なるべく経緯の説明なしに今そこでその人が発している存在から感じ取ってもらえるようにしたいんですね。
広瀬すずによく言っていたのは、
映画には映らない背景がたくさんあるから、一瞬で感じさせなくちゃ駄目だ
ということ。


製作段階で辰哉のキャスティングを、現地で公募するというのを聞いて嬉しかった!
辰哉は沖縄の風を持ったコじゃないと。
歌ったり踊ったり、バラエティ番組に出てアホなこと言ってるようなコじゃダメなんだ。
佐久本宝くんもがんばったなあ。

===
さて、妻夫木聡と綾野剛のゲイカップル。
撮影の為二人で暮らしていたと話題に。
そうだよね、やっぱり一緒に暮らすと関係性が違うよね。
この時点でチロルは、単に”一緒に暮らした”と思っていた。

先ほどの「小説怒りと映画怒り - 吉田修一の世界」に興味深いくだりがあった。
第2章 映画撮影現場を訪ねて 
吉田修一先生が現場を訪ねた時のエッセイ。

「東京編」の現場を訪ねた先生は、早速顔見知りの衣装担当、ヘアメイクさんに状況を聞く。

――優馬も直人もすごくいい。二人ともかなり役作りして入ってるから
――撮影前から一緒に暮らして、毎日同じベッドで寝て、一緒にお風呂入ってるって。
――撮影中も、ずっと手繋いでたり、キスしたり、イチャイチャしてますよ

ご、ごめんなさい! チロル、甘ったれたこと考えてて、ごめんなさい!
ただ一緒に暮らしていたって何の意味もない。

この後、先生と妻夫木聡の対談で更なる状況が分かった。
――二人のシーンをリハーサルした時に監督に、
「二人ともゲイに見えない。ただ芸能人同士がめし食っているだけにしか見えない」
と言われてリハーサルやめてみんなで「ブエノスアイレス」見たりしたんです。
でもまだ入り込めた気がしないので、結局、剛と「じゃあ・・・一緒に住むか」と。


追い込まれての提案なのだった。それじゃあ二人で暮すのも本気出さないとってことよね。

李相日は妥協を許さない監督で、全編その緊張感がビシビシと伝わって来た。
吉田修一ファンとしては、原作に対する思い入れが強いので、映像化される作品はいつもいくばくかの不満がある。
でもこの作品は、文句なしでした。
李相日監督、ありがとうございました。



映画 怒り その2PageTop大脱出

Comment

錚々たる俳優陣

チロルちゃんたら、ドハマリの映画でしたね。
李監督に、俳優陣は質の高い表現を求められ完成させていったのでしょうね。
ここで、チロルちゃんも言っていた水沢慎吾の怪演!凄いんですよ!
彼は、毎年5本前後の映画やドラマに出演していて、えっこんなに出てたのかって。
「サイタマのラッパーシリーズ」(MC TMO)、「まほろ駅前協奏曲」等など
そして「ドラマ64」では10キロ絞って地毛ぶち抜いて仕上げて来たそうです(新井浩文)14年間苦痛を抱き続ける刑事。うむ。
極め付きは、「ぼっちゃん」この作品は秋葉原通り魔事件を模した作品ですが、もう見ていてつらたん、きもげ、こちらが気絶しそうでしたわよ…
本当に彼は怪演と言う快演を嫌という程見せつけてくれますよ。
あっ「溺れるナイフ」見に行かなくっちゃだわ!

P.S

「ぼっちゃん」主役 梶知之
「溺れるナイフ」の誰役かしら
蓮目?いやいやわかりませんわ

二子玉マダムも騒然?

たまにしか映画館で見ないのに、イケメンの絡みがあるときけば、いつになくフットワークの軽い女でごめんなさい。

毎年LG映画祭で海外の一流の俳優が同性愛者の役をいわゆる「体当たり」で演じているのを見てきたので、役者ならこのぐらいやるでしょと最初は思ったけど、よく考えたらここはスパイラルホールじゃない!

これは誰もが知っている有名俳優が演じる東宝映画で、真っ昼間の上品な二子玉のシネコンで見てるんだった。
水曜日の午前上映、隣は制服の女子高生(学校は?)、後ろはいかにもニコタマな裕福そうな高齢のご夫婦・・・と一緒に見るハッテンサウナシーン。
これはのちに初めてゲイライフをリアルに描いた日本映画として歴史に残るかもって思いました。

それはそれとして、これまで一度もいいと思ったことがない人も含めて、全ての俳優・女優がとても魅力的だったなー。お金を出して見る価値のある映画でした。

そして、見てから原作を読んで、「なるほどーそういう背景があったのか」と、ウシのように反すうしているところです。

■けんちゃん

コメントありがとうございます。

はい、ドハマリですよ~~

> 李監督に、俳優陣は質の高い表現を求められ完成させていったのでしょうね。
俳優陣は李監督に追い込まれ、他の共演者たちに触発され、
全てが相乗効果で高いレベルの力が発揮されたと思います。

水澤紳吾、そんなに出てるんだ~知らなかったとです。
「ぼっちゃん」チェックして気になってた。
つらいのね。やめとく・・・(小心者)
これから水澤紳吾ブームが来るかもだ!

> あっ「溺れるナイフ」見に行かなくっちゃだわ!
今度はどんな役ドコロなのかしら?気になる~
「まほろ」はたしか宗教の信者だったよねえ?

■ゆきのこさん

> たまにしか映画館で見ないのに、イケメンの絡みがあるときけば、いつになくフットワークの軽い女でごめんなさい。
なかなか映画館に足を運ばないゆっきーを劇場に行かしめる「怒り」のパワー!?
いや、イケメン絡みを見たいだけの腐女子のオカマゴコロか!?

> 水曜日の午前上映、隣は制服の女子高生(学校は?)、後ろはいかにもニコタマな裕福そうな高齢のご夫婦・・・と一緒に見るハッテンサウナシーン。
これを夫婦とかカプルで見るのって、チロルにはできない・・・。
二子玉セレブ夫婦の感想やいかに・・・。

> これはのちに初めてゲイライフをリアルに描いた日本映画として歴史に残るかもって思いました。
たしかにエポックメーキングかも。
橋口亮輔監督作品でゲイを描いたものはいくつかありますが(「ハッシュ!」とか)、それとはまた違う。

> これまで一度もいいと思ったことがない人も含めて、
それは誰のことかナ~~?宮〇あ〇い??

>全ての俳優・女優がとても魅力的だったなー。
ほんとに全員よかった!同感です。
記事で叫びたかったけど、名前の羅列になっちゃうからやめたッス。
でもここで叫びたい!
池脇千鶴のズケズケ感、ピエール瀧の足の臭い感、三浦貴大の若い実直さ、森山未來の得体の知れなさ、
松山ケンイチのぼーっとつかみどころのないかんじ・・・切りがない!
宮崎あおいの慟哭シーンで、唇がワナワナワナとしたのを見て、「女優って、ス、スゴイ!」と思った。

> そして、見てから原作を読んで、「なるほどーそういう背景があったのか」と、ウシのように反すうしているところです。
お買い上げいただきありがとうございますw
前述したように、李監督は背景を語らないので、原作読んで初めてわかることも多いかと思います。
今回「観てから読む」の方がおもしろいかも。

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ナンシー☆チロ

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映画と本のつれづれ日記。
マイナー路線でごめんなさい。
サッカーも好き☆
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追記・その他

  (2017/07/15) 「FATHERS」に追記あり。 プーン役のAsda Panichkulは元MTVアジアの人気VJで東南アジアでは有名人。 ユク役のNat Sakdatornはタイのタレント発掘番組で優勝した実力派シンガーソングライター。

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