ひなた

「ひなた」 吉田修一

ひなたひなた
(2006/01/21)
吉田 修一

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新堂レイは有名ブランドHに就職したばかりの新人広報。 海で偶然再会した同級生の大路尚純と昨年夏から付き合っている。
尚純は大学生。 
彼が両親と暮らす文京区小日向の家で、兄夫婦が同居をし始めた―。
それぞれが関わり合って淡々とした日常を紡ぎだす。
お互いに踏み込むことのできない「聖跡」を抱えながらも―。
四人の視点で 「春夏秋冬」 を描き出す。



ゲイテイストというおススメをいただき 読んでみた。

一時期はまった映画や本に、”久しぶりに” 手を出すのは、疎遠になった男ともだちと再会するような気分だ。
逢いたいけれどなんだか腰が引ける。
昨年のヴィスコンテイは、「若い時につき合った男: 極上で、とても魅力的なんだけど、つき合ってて楽しいことばかりじゃなかった・・・もう一度会いたいような、会いたくないような」みたいな、で10年、20年経ってしまった。

吉田修一は、まだほんの一年ぶりくらいなのだが――
久しぶりに会っても、やっぱり、何気なくセンスが良くて、気が利いていて、居心地が良かった。

一組の若いカップル(大路尚純と新堂レイ)、一組の若い夫婦(大路浩一と桂子)の春夏秋冬を描く。
な~んだ、デキ上がったカップルかよ! (しかもヘテロ)
しかし、一体どこがゲイテイスト?! と別の意味で興味深く読み始めた。

途中、小ネタがチラ、チラッと。
尚純が近くの公園でリーマンにナンパされた話だとか、兄弟の叔父:歌舞伎町に二軒店を持っている。一軒はジャズバーで、もう一軒が七十年代風ソウルバー。
剛志叔父さんは今年四十八になるのだが、まだ独身、親戚の間ではゲイの噂も出ているらしいが(後略)
この叔父さんの描写だけで、萌え~~☆

さてこの話、前述したように二組のカップルの話ではあるが、吉田修一メソッドと言うべきか、性愛の匂いが感じられないのだ。
(なので、ミソジニーの方も安心して読んでいただけます)
それより、浩一と友人・田辺との関係とか、桂子と昔の男・遠野とのやりとりの方がずっと はあはあする。
この遠野(カメラマン 50歳)の描写がいい。

――二枚目というわけでもないのに、妙な魅力がある男だった。
一緒にいると、野犬に睨まれたように身が竦むこともあれば、
逆に暖炉の前で居眠りしているような気分にさせられることもあった。


しかし、たちが悪く、ずるい男なのだ。
だから魅力的とも言えるのだが・・・。

浩一は銀行員だが、学生時代の友人たちと小さな劇団を作っている。
この劇団の演目が渋く、前回はボリス・ヴィアン <日々の泡>、その前は ヘミングウェイの<敗れざる者>、そして今年は <熱いトタン屋根の上の猫>。
《春》 にこの話が出た時は、ほほお~、テネシー・ウィリアムズ、ニクいセレクトだな、くらいに思っただけだった。
しかし、その後 ”いろいろ” あり、《夏》 桂子が芝居の練習をのぞく件は、読んでいて怖かった。
この辺りの見せ方がうまいよ。 セリフまで引用してるし。

浩一は、主役 ブリックである(映画では、ポール・ニューマンが演った役ね)。

――僕にとって、かけがえのない、尊い真実なもの、それは君に対する愛情じゃない。
スキッパーとの友情がそれなんだ。
君はそれを汚そうとしてるんだ!

しゃれにならないよ~~

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↑映画の方は、当時の倫理コードにより、同性愛色がぼかされて、
何を言いたいのかよくわからない作品となってしまった


この話に出て来る人々は、みな心に秘密を抱えている。
のんきに見える大路の父・母も大きな秘密がある。
それぞれのエピソードの描き方もうまく、ぐいぐいと読ませてしまう。
人物構成も巧みだ。

ところで――
こんな件があった。桂子と浩一の友人 佐々木との会話:

――今日のあいつすごいよ。ノリにノッてる。
・・・あ、ノリにノッてるって、ちょっと古い?
――ちょっとじゃ利かないと思うけど・・・。
あ、利かないって言葉も、最近使わない?


え、マジっすか?!
佐々木は劇団の脚本も書いていて、桂子は編集者、どちらも言葉には敏感な人たち。
ええーーっ、古いなんて全然思ってもいないんですけどお~~~、と言っている私は既に終わっているのか・・・ショック。

<ひなた> というよくわからないタイトル。
これは、大路の家:築50年 のある、文京区小日向とかけているものであろう。
又、ひなたのようなこの家にも秘密=ひかげがある。
人は誰も 「ひなた」 を望み、憧れる。
華やかな業界、やり甲斐のある仕事(レイは有名ブランドHの広報、桂子はファッション誌の副編集長)、しかしその実、業務は修羅場であったり。
読んでみると、意味深長なうまいタイトルだった。
終わりはどこかしみじみとさせる一作。

巻末に、この作品の初出が <JJ>(2003年~2004年連載)とわかり、納得した次第。 女性二人の職業設定がね。狙ったんでしょうね。
今までの吉田修一作品の中で、一番読みやすいんじゃないでしょうか。



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Comment

 >この劇団の演目が渋く
わかる人にはわかるってやつね。
「熱いトタン~」もそうだし、ヴィアンも別名義でビアンが出てくる小説書いてるし。

それにしてもJJか・・・。
JJの読者って小説読むのかなあ。
ケータイ文学みたいな方が似合いそうな。

■スカージョ☆

>わかる人にはわかるってやつね。
「熱いトタン~」もそうだし、
これがどういう内容の話か、わかっている人とそうでない人では、楽しみ方が全然違ってくるよね。
そら怖ろしさも違ってくる。
パロデイの元ネタを知っているか否か。

>ヴィアンも別名義でビアンが出てくる小説書いてるし。
え、そうなんすか!? どんなかんじだろう?
そうすっと、このヘミングウェイの作品は(未読だけど)どんなんか?
尚、次回は ジェイン・オースティンでした。

>それにしてもJJか・・・。
いえ、私は何もいいませんよ、ぐふぐふ(汗)

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Author:ナンシー☆チロ
映画と本のつれづれ日記。
マイナー路線でごめんなさい。
サッカーも好き☆
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追記・その他

  (2017/07/15) 「FATHERS」に追記あり。 プーン役のAsda Panichkulは元MTVアジアの人気VJで東南アジアでは有名人。 ユク役のNat Sakdatornはタイのタレント発掘番組で優勝した実力派シンガーソングライター。

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