小説 悪人

「悪 人」 吉田修一

悪人(上) (朝日文庫)悪人(上) (朝日文庫)
(2009/11/06)
吉田 修一

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悪人(下) (朝日文庫)悪人(下) (朝日文庫)
(2009/11/06)
吉田 修一

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馬込光代は双子の妹と佐賀市内のアパートに住んでいた。携帯サイトで出会った清水祐一と男女の関係になり、殺人を告白される。彼女は自首しようとする祐一を止め、一緒にいたいと強く願う。光代を駆り立てるものは何か?毎日出版文化賞と大佛次郎賞を受賞した傑作長編。

読み終わって、涙が止まらんやったとです。
文句なしの力作であるが、チロ的視点から書いてみたい。



冒頭で、ある殺人事件が報じられる。
時は遡り、被害者 石橋佳乃の生前の様子が描かれる。

佳乃は博多で保険外交員をやっているのだが、その周辺、同僚の沙里と眞子:女三人の描き方が実に吉田修一らしい。
特に佳乃と沙里、水面下の女のバトルがコワい~~!
妬み、意地、見栄の張り合い・・・。
吉田修一の女を見る目線は女性以上に辛辣で、それはそれはおそろしいものがある。

特に石橋佳乃への目線は厳しい。
出会い系サイトで出会った男たちにこづかいをせびっていたこともある。
そして、佳乃が憧れていたイケメンボンボン大学生の増尾視点での佳乃・・・。

たまたま公園で会って車に乗せた佳乃の軽薄なおしゃべりに増尾は嫌悪感を抱く。
話題を変えようとして、

――そう言えば、さっき公園の便所で小便しとったらホモに声かけられた。
殺すぞ!って脅したら逃げてった。
マジでああいう奴ら、立ち入り禁止にするべきやね。

――でもそういう人にとっちゃ、普通の街が立ち入り禁止みたいにされて、
ああいう所しか残ってないっちゃない?
考えたらちょっとかわいそうやない?
世の中いろんな人がおるとにねえ。


すいません、ここで爆笑しました。
吉田修一らしいモーホネタもそうだけど、何気なくふった話題に正論で返された増尾。
(しかも内心バカにしていた佳乃に)
佳乃にさらに憎悪を募らせていく(笑)

その後も助手席で恋人気取りの佳乃を見ていて

――とつぜん「こういう女が男に殺されるっちゃろな」と増尾は思った。
本当にふとそう思ったのだ。


とまで、吉田修一は増尾に言わしめるのだ。

前半のこの石橋佳乃の描き方が気になったとです。
仮にも被害者なのだから、こんなにキビしい描き方をしなくとも・・・。
まるでこれじゃ殺されても仕方なかね、と読者に思わせるような。
実際彼女に対する同情の気持ちはあまりわかない。
なぜこんな描き方をするのだろう。

しかしやがてわかって来る。これは吉田修一の戦略なのだと。
傍目から見たら石橋佳乃は、ひとことで言えば、とんだ「性悪女」ったい。
だけど、佳乃の父・佳男にとっては、かけがえのない一人娘なのだ。
佳乃が「性悪女」であればこそ、いっそう父・佳男の愛情、悲しみが深く感じられるのだ。

===
この作品の特徴に、キャラクターの人物像が彼(彼女)を知る周辺の人々の「証言」によって形作られるスタイルがある。
たとえば祐一であれば、幼なじみのともだち、叔父、昔入れ上げたヘルス嬢などなど。
これが非常におもしろかった。
祐一にはそんな面があったとですか!? 知らんやった・・・。
の連続でした。
(映画ではこのスタイルは排除してあるので、祐一は「得体の知れない」男になっている)

印象深い証言がある。
光代の妹が高校時代、姉・光代とボーイフレンドとの交換日記を盗み見てしまう。
妹は自分の知らない姉の一面を見て愕然とする。
おとなしく地味で平凡な女・光代の「業の深さ」。
読んでいてそら恐ろしくなった。
これがあってこそ、後に殺人犯と逃避行に走る、というのが納得できる。

こういったエピソードの幾層もの積み重ねにより、この物語は重層で深いものになっている。

===
さて、実は私は原作を読み終わらず、下巻半ばの時点で映画を観たとです。
映画を観終わって、疑問がいくつか残った。

なぜ祐一は母親に会うたび金をせびったのだろうか。
なぜ祐一は最後に光代を・・・。

しっくりしないまま帰途についた。
この疑問の答えは実は同じ答えで、残りの部分に書いてあった。
この答えを思うと、そうしなければいけないと考えた祐一を思うと、涙がとまらなかった。

原作の最後を残して映画を観たということは、結果的に良かったと思う。


――あんた、大切な人はおるね?
その人の幸せな様子を思うだけで、自分までうれしくなってくるような人たい。


この言葉の通りなら、大切な人をみつけた祐一は今幸せなのだろうか。


――世間で言われとる通りなんですよね?
あの人は悪人やったんですよね?
その悪人を、私が勝手に好きになってしもうただけなんです。
ねぇ? そうなんですよね?


光代は・・・どうなのだろうか?

===
原作を買おうとしたら、たみきさんが、「新宿ジュンク堂にサイン本がある」と教えてくれました。
やったー! たみきさん ありがとう☆
映画化バージョンの表紙カバーの下に、オリジナルのカバーがあることにしばらくして気づきました。
読み終わってから見ると、この灯台の画は感慨深いものがある・・・。

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Comment

小説も読んだし、映画も観たので、やっとコメント書ける(笑)
映画の予告を長い期間何度も見させられたので、
登場人物ってあれだけかと思い込んでたんですけど、
原作を読んだら案外いろんな人が出て来て、
これで収束つくんだろうか?と思ったのが上巻。
いろんな人の証言形式で、祐一像を作り上げて行く手法が面白かった。
で、下巻でやっと映画のストーリーに近づくんだけど、
どっかしら皆「悪」な行動を取ってるのが興味深かった。

祐一の祖母がマスコミに囲まれながらバスに乗車しようとして、
マスコミ連中がバスの運転手に一喝されるシーン。
そして、「あんたが悪い訳じゃなか」って言われるシーン。
あそこ読んでて泣きそうになった。
あのシーンが映画にもあって嬉しかったなあ。

祐一がお金を母からせびってる話、
確かに映画だけだと何なのかわかりませんね、
逆にあの一言で「やっぱり悪い人なんだ」って思わせるものがある。
だけど、原作にある「どっちも被害者にはなれない」って言う、
祐一の言葉があるからこそ、お金もせびるし、光代の首にも手をかけた訳で。
母も光代もどっちも「泣いて謝って」ましたしね。

サイン本ゲットできてよかったです。
たまに、大型書店に行くと
普通に「サイン本」って平積みになってて驚きますw

■tamikiさん

> 小説も読んだし、映画も観たので、やっとコメント書ける(笑)
おつかれさまでした~~

> そして、「あんたが悪い訳じゃなか」って言われるシーン。
> あのシーンが映画にもあって嬉しかったなあ。
うん、あのエピソード、良かったね。

> 祐一がお金を母からせびってる話、
> 確かに映画だけだと何なのかわかりませんね、
> 逆にあの一言で「やっぱり悪い人なんだ」って思わせるものがある。
あれ、映画だけ見た人はどうなんだろうなあ。
でも、吉田修一も監督もあれでいいと思ったわけでしょ。???

ところで、書店に置いてあった小冊子、書店員が選ぶ、
「私たちは小説<悪人>のこの場面が好きだ」
いろんな人が自分の思い入れある場面をピックアップしてるのがおもしろい。
tamikiさんならどのくだりを選びますか?
私は終盤、光代が正月実家に帰った時、欲しいものが何もない自分に愕然とし号泣する場面。
あそこ泣けた~~。光代の孤独感が痛い位伝わって来た。

> サイン本ゲットできてよかったです。
うん、よかったです。ありがとう。

え、泣くの???

困ったな、それだと読み進められない(苦笑)

すんません、吉田初体験です。

読んでてリアルすぎて怖くなってる自分です。

何も情報持ってないので、最初、お水役が深津かと
ふかつ(く)ながら勘違いしよっと←お、ついに出た!

まずは途中経過までw

明け方までに

読了・・・・

ううっ

主人公ふたりの孤独感が異国にいる環境のせいか
それだけで泣けてきた・・・

実名派。スヌーピーが出てきてびっくりだよ。そこだけワロタ。

人物描写が鋭く感じるのは、私が小説に慣れていないせいにしとくねw

■ばるこ白みるくさん


> 何も情報持ってないので、最初、お水役が深津かと
あ、私もカン違いしよっと。
たみきさんもそうだよね。

> ふかつ(く)ながら勘違いしよっと←お、ついに出た!
使いたくなるでしょ!?

===
>明け方までに読了・・・・
おつかれやま

>主人公ふたりの孤独感が異国にいる環境のせいか
それだけで泣けてきた・・・

読み終わった時、私が一番思ったのは、陳腐ながら、
祐一が不憫で不憫で・・・。こんないい子なのに、どうして幸せになれないんだろう。
誰も祐一を理解してやれないことが、せつなくてせつなくて。

渋谷謁見の宴で私が言った、光代が正月に実家に帰った時、自分には欲しいものも何もなかった、と気づいた時の孤独感。あそこ泣けたとよ。すごく共感した。
孤独感を表現するのに、こんな方法もあるんだと。

>実名派。スヌーピーが出てきてびっくりだよ。そこだけワロタ。
あ、そうそう、吉田修一はそういう実名出すの好きだよ。

この作品を異国で読んだということが、後に白みるくさんの思い出になるでしょう。


やっと・・・

先週読み終わった(激遅)
ワタシは映画を見てないので、小説だけ読むと祐一のイメージはぶっきーじゃないよね。体型も。
でもぶっきーのことだから演じきっただろうね。ぶっきーからこの役を切望したって話だし。
深津はぴったりだよ~。

>おとなしく地味で平凡な女・光代の「業の深さ」。
読んでいてそら恐ろしくなった。

これわかるな。地味そうでとてもそんなことしそうにない人なのに不倫してたりする女、身近にいるもん。
で、そういう人の方が男好きだったりする。

いろいろ言いたいことはあるけど、出遅れたので、めっちゃリアルにこの舞台に住んでる人間として一言。
何か全体的に舞台が暗い雰囲気がするのは気のせいかな。こんなに暗くないぞ~(笑)

あと男の子を持つ母として一言。
年頃の男の子の性衝動って凄いのねw(中年もか?)
間違った解釈かもしれないけど、この小説って孤独で社会性のない不器用な若い男の性の衝動から、すべてはじまってるような・・・。
いや、愛情に飢えてるからそういう方向に行くのか・・・?

まとまらない(笑)こんな感想で済みません。

■りおこさん(ともよちゃん)

> 小説だけ読むと祐一のイメージはぶっきーじゃないよね。体型も。
ほんとそうだよね~ 
全く違うイメージの役をやり切る、つうとこが役者冥利なのかもな。
週刊朝日のインタビュー(吉田修一×ぶっきー)に、ぶっきーは役にのめり込んじゃう人なので、
先に深津さんに謝ったそうだよ。
撮影が始まったら、加減が出来ないぶっきーを深津が全て受け止めてくれた。
と、ぶっきーは言ってた。ふかづって37くらいなのね。あねさん

> これわかるな。地味そうでとてもそんなことしそうにない人なのに不倫してたりする女、身近にいるもん。
> で、そういう人の方が男好きだったりする。
ぎゃははは!! リアルな感想メルシーでごんす。
共感させてしまう、そういうとこが吉田修一はうまいと思うな。

>、めっちゃリアルにこの舞台に住んでる人間として一言。
> 何か全体的に舞台が暗い雰囲気がするのは気のせいかな。こんなに暗くないぞ~(笑)
あははは!!! ほんと全体のトーンが暗かった!
ひとこと言いたくなるよね。

> あと男の子を持つ母として一言。
> 間違った解釈かもしれないけど、この小説って孤独で社会性のない不器用な若い男の性の衝動から、すべてはじまってるような・・・。
> いや、愛情に飢えてるからそういう方向に行くのか・・・?
いやいやいや、またまたリアルな感想をありがとう。
そういう視点って、おもしろいと思ったよ。さすが2男子の母。
そこんとこがこの作品のひとつのキモだよね。
そのリビドーをうまく昇華させていれば、不幸は起きなかったという話。
(映画ではそのキモをちゃんと描いた→主演二人の”熱演”エラい!)

次は是非映画を見て、また感想聞かせてくれ~~~
ぶっきーやふかっちゃんの九州弁もチェックしてくれ~~~

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ナンシー☆チロ

Author:ナンシー☆チロ
映画と本のつれづれ日記。
マイナー路線でごめんなさい。
サッカーも好き☆
過去記事へのコメントも歓迎です。
尚、宣伝目的や記事に関連のないリンク・コメント・トラックバックなどはこちらで削除させて頂きますので、ご了承下さい。

追記・その他

  (2017/07/15) 「FATHERS」に追記あり。 プーン役のAsda Panichkulは元MTVアジアの人気VJで東南アジアでは有名人。 ユク役のNat Sakdatornはタイのタレント発掘番組で優勝した実力派シンガーソングライター。

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