ベニスに死す

「ベニスに死す」
(1971/)ITALY+FRANCE/Morte a Venezia /Death in Venice)


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今年2011年は、作品公開40年、ルキノ・ヴィスコンティ没後35年、マーラー没後100年、生誕150年だそうでございます。
それを記念して、ニュープリント上映。
ニュープリントで大きいスクリーンで見られるのは、ありがたいこってす。

@銀座テアトルシネマ


この作品を最後に観たのは一体いつのことだったか?
若い時分に観た時は、なんて滑稽で残酷なラストだろうと思った。
しかし今観ると、この老作曲家にとっては、なんと幸福な死ではないか、と思うのだった。

若い人がこの作品を本当の意味で理解するのは容易ではない。
歳を重ねた時、よりこの作品を楽しめるのではないか。

この作品はおそらく ”一般的には”、ヴィスコンティ作品の中でもっとも有名な作品ではないだろうか。
この作品をそう言わしめるのは、アイコンともいうべき タジオ=ビヨルン・アンドレセンの存在によることが大きい。
今回観ていて、タジオというのは、「美」 としての絶対的存在であるなと実感。
彼を美少年であると思うか否か、好きか嫌いか、そのような次元をもはや超越した存在に見えた。
そうさせたのはこの作品そのもの=ヴィスコンティ・マジックなのだけれど。

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タジオのモデルとなった貴族に関してのエピソードは、<ルキーノ・ヴィスコンティ ある貴族の生涯> に書いたのでご参考まで。
この本には、トーマス・マンの小説を映画化する際のヴィスコンティのアプローチの仕方が記してあり興味深い。
たとえば、原作では主人公グスタフ・アッシェンバッハは小説家である。
これを映像化する場合、小説家はよろしくない。なぜなら作家が執筆している姿を観客が見た時、

――その作家が 『戦争と平和』 を書いていようと、
歯医者に支払う小切手を書いていようと同じ事である――

あはは、なるほど。
また、作曲家・指揮者だったら、ピアノに向かって作曲しているシーンや指揮中の動作や表情でドラマチックな効果を得られる。
ごもっとも。

トーマス・マンがマーラーに心酔していたのは事実で、アッシェンバッハのファーストネーム グスタフは、マーラーからのいただき。
(マン夫妻はマーラー夫妻とお茶を一緒にしたことがある。マンはいたく感激していたそうな)
尚、アッシェンバッハの親友アルフリートは、アルノルト・シェーンベルクがモデルと言われている。

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トーマス・マン ”美少年好き” (← マン夫人の証言あり
 


タジオがホテルのホールで 「エリーゼのために」 を弾くシーン (この曲はヴィスコンティがビヨルンに、何か弾いてごらんと言った時に自分で選んだ)、ここからフラッシュバックし、若いアッシェンバッハが娼館にいる。
若い娼婦が同じ曲を弾いている。
このシーンを淀川さんは、

「映画で見る限りアッシェンバッハはここでタジオ少年を
精神の中で肉体的に犯しているのである」


と言っている。
え、アッシェンバッハの想いは、あくまでプラトニックではないの?と思ったら、淀川さんの指摘を肯定するようなヴィスコンティ自身のコメントがあった。

タジオと娼婦エスメラルダに共通点があるかのように描く。

――タジオとアッシェンバッハの間に結ばれた無言の関係が
両義性を帯びて行く経緯を強調するためであった。


両義性とは?
聖なるものと俗なるもの、精神と肉体、ということだろうか。


===
――アッシェンバッハはタジオに魅せられていても、
その一家と知り合いになりたいという気は起きない――
有名な芸術家であれば一家と近づきになるのはそうむずかしくなかったであろうが。


こんなシーンがある。
アッシェンバッハはタジオたちポーランド貴族一家に近づき、「早くここを発った方がいい」 と忠告する。
そして彼を見上げたタジオの髪にそっと触れる・・・。

ところがこれは妄想なのだ。
このシーンを観た人の多くはは、なぜそうしないのか?と思うのでは?
しかしこの作品のキモは、”そうしない” ところにあるのだ。それでいいのだ。

venice04.jpg  妄想


この作品はヴィスコンティ作品の中でも、実は上級レベルではないかと今回感じた。
軽い気持ちで観ると、途中置いていかれる。


===

ヴィスコンティの晩年のテーマのひとつとなった 「老い」 と 「死」、アッシェンバッハを演じたダーク・ボガードはこの時果たしていくつだったのか? 
観ていて気になって気になって → 50歳、いやいやまだまだ若い。
ダーク・ボガードは、ヴィスコンティにこの作品のアッシェンバッハ役の出演を長距離電話で要請された時、

「ローレンス・オリヴィエからハムレットを演じるように、
ただし彼よりもうまく、と言われたのと同じだ」
と語った。

===

タジオはお召物をたくさんお持ちであった。
セーラー服は白ベースと紺ベースをお持ちで、その他金モールのついた軍服風、金ボタン付きネイビーブレザー、水着だけでも三着はあった。
美少年の記号ともなったセーラー服をはじめ、この作品の衣装を担当したのは、ヴィスコンティ組 ピエロ・トージ。
彼の貢献は多大と言えましょう。

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(左)ピエロ・トージ、ルキーノ、美しいシルバーナ・マンガーノ



ことほどさようにこの作品は、
キャスト、演出、撮影、衣装、音楽・・・映画というのは総合芸術であると実感する一作。

街で、銀行のATMコーナーやショッピングモールで、マーラーの交響曲第5番を耳にした時、私たちの想いは一瞬にしてヴェニスに向かうでありましょう。



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===
先日、こんなニュースが。

「ベニスに死す」の舞台になったホテルが売却!映画ファンと観光客に衝撃(2011年9月8日)
ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「ベニスに死す」の舞台になったホテル「オテル・デ・バン」がアメリカ資本によって買い取られ、マンションとして売却されることになり、多くの旅行者と映画ファンに衝撃が広がっている。
2009年にアメリカ資本によって買い取られた「オテル・デ・バン」は、8月29日付けのル・モンド誌によると、2フロアーを除いて、マンションとして1平米15,000ユーロ(約160万円)、100平米の部屋で約1億7,000万円にて売却されることが決定。映画ファンだけでなく多くの旅行者に衝撃を与えることとなった。


===
来年には、<家族の肖像> がリバイバル上映予定。
待ってました! もう一度観たかった。 これ、スキなのだ。


インモータルズ 神々の戦いPageTopスリ (文雀)

Comment

もう、べニスに死すは死ぬほど観た作品なんですよ。

全てが好き。
原作本も読んだし、
アッシェンバッハもタッジオもマンガーノが演じる母親も全て好き。
タッジオの妹を演じている黒髪の美少女も好き。
ワタシ的にはこの妹が最も完璧な美しさだと思います。

時代は激動期。
確かにそこにいた芸術家とある家族の小さな接点が、天才映画監督の手によって不朽の名作となったのです。

タッジオ一家のその後が気になりますね。
あの妹はきっと波瀾万丈な人生を送ったと想像します。

■るるさん

コメントありがとうございます。

> アッシェンバッハもタッジオもマンガーノが演じる母親も全て好き。

シルバーナ・マンガーノはもともと好きな女優なのですが、
彼女ほどこの役にはまる女優はいませんね。
スクリーンの中だと、彼女とビヨルンはほんとの親子のように見えます。
ボルゾイとかスレンダーで気位の高い高級大型犬のよう。

> タッジオの妹を演じている黒髪の美少女も好き。
> ワタシ的にはこの妹が最も完璧な美しさだと思います。
たしかに美少女でした。
さすがルキーノ、このあたりのキャスティングにも手抜きがありませんね。

> タッジオ一家のその後が気になりますね。
> あの妹はきっと波瀾万丈な人生を送ったと想像します。
タジオ一家の行く末まで想いを馳せるとは・・・。
るるさん、筋がね入りのファンですね。

昨日のスカパーの無料サービスで見ました

手を触れようとするとスパッとやられそう

女の子で、こういうオーラを持つ子はまず見ない

この攻撃的とさえ言える鋭い美しさこそが、女の子と比べた時に彼が特別である証しなんだと思う
自分がそこにぽつんと存在するだけでは飽き足らず、外に向かわずにはいられない、この「陽」の性質こそが

なよなよと曲がりくねった女体の美しさは、強い者に守られて初めて引き立つ魅力であり、やはり「個」としての完成された美しさという点に於いては、彼の方が洗練されているように思う

コメントありがとうございます。

> 手を触れようとするとスパッとやられそう
> 女の子で、こういうオーラを持つ子はまず見ない
> この攻撃的とさえ言える鋭い美しさこそが、女の子と比べた時に彼が特別である証しなんだと思う

そうですね。美少年の魅力はまさにそこですね。
「美少年」の持つあやうい魅力。
大人でもなくこどもでもない。
もしかして明日にはそれが失われて大人になってしまうかも知れない。
そんなところにも惹かれます。

> なよなよと曲がりくねった女体の美しさは、強い者に守られて初めて引き立つ魅力であり、やはり「個」としての完成された美しさという点に於いては、彼の方が洗練されているように思う

タジオの一家で、彼が唯一の男性なんですよね。
だから、ベニス本島を散策するシーンなど常に一番後ろにいて、姉妹たちを見守っている。
少年だけど「男」なんです。
そこもいいと思います。
「ベニスに死す」のタジオ少年はいつまでも見ていたくなるのです。

死神タジオ

チロルさん、再びこんにちは。

死神タジオ! これは、本当です。タジオはドイツ語ではTadzioとつづるのだったと思いますが、つづりの中にドイツ語の「死」(Tod)が入っているのです。これは、原作者トーマス・マンの仕掛けた字謎(アナグラム)なんですね。
アッシェンバッハは死神に殉じるトートクネヒト(死の奴隷)。クネヒト(Knecht)は英語のKnight(ナイト)と同語源と思われますから、死神に仕える死の騎士とも(カール・リープクネヒトという一次大戦後のドイツ共産党の前身のスパルタクス団の女性リーダー=ローザ・ルクセンブルクを陰で支えた男性。ドイツ文学者の種村季弘氏がローザに仕える愛の奴隷と訳していたことからの連想です。リープはリーベ=ドイツ語の愛(ラブ)の派生語)。

ところで1973年にイギリスの作曲家でゲイのベンジャミン・ブリテンがオペラ「ベニスに死す」を上演しています。彼の生涯の恋人のテノール歌手ピーター・ピアーズをアッシェンバッハにして。ブリテンとピアーズはずっとパートナーだったのですが、一時期二人の間にデヴィッド・ヘミングスという若い俳優が入って二人の関係が壊れかけたことがあるそうです。
デヴィッド・ヘミングスってどんな俳優か? イタリアの偉才ミケランジェロ・アントニオーニ監督のカラー2作目、初の海外ロケ(ロンドン)の作品「欲望」(原題Blow up=引き伸ばし? 爆発?)の主役で、カメラマンを演じています。アントニオーニは撮影の前にペンキでレンガを赤く、公園の木の葉を緑に塗らせたそうです。
ヴィスコンティやフェリーニが狂気じみた映画監督であることはわかるのですが、もっとリアリズム寄りと思っていたアントニオーニでさえ! デヴィッド・ヘミングスの横顔をちょこっと。「BLOW UP - Official Trailer」(1966)(https://www.youtube.com/watch?v=TrJ9U75OZOw

■フロイントさん

こんにちはァ。

> 死神タジオ! これは、原作者トーマス・マンの仕掛けた字謎(アナグラム)なんですね。
へぇ~へぇ~へぇ~ 知らなかった・・・。

> アッシェンバッハは死神に殉じるトートクネヒト(死の奴隷)
これは大いに納得できるです。殉じるなら死も幸せでありましょう。

> ところで1973年にイギリスの作曲家でゲイのベンジャミン・ブリテンがオペラ「ベニスに死す」を上演しています。
オペラで「ベニスに死す」ってすごいですね。
芸術家を魅了する題材なのね。

>デヴィッド・ヘミングスと言えば、その昔当時モンティパイソンファンクラブの会長(♀)がファンで、当時の私は全く理解できず。渋すぎやろ!?と思った記憶が(ンン十年前の話です(汗)

ミケランジェロ・アントニオーニはあまり見ていなくて、「情事」と「太陽はひとりぼっち」くらいかな。
「欲望」は見よう見ようと思いながら・・・。いつも引っかかっている作品。
あとで借りて来ようっと。

〉もっとリアリズム寄りと思っていたアントニオーニでさえ!
アントニオーニもやっぱり”イタリア人!”ってことでしょうか。

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ナンシー☆チロ

Author:ナンシー☆チロ
映画と本のつれづれ日記。
マイナー路線でごめんなさい。
サッカーも好き☆
過去記事へのコメントも歓迎です。
尚、宣伝目的や記事に関連のないリンク・コメント・トラックバックなどはこちらで削除させて頂きますので、ご了承下さい。

追記・その他

  (2017/07/15) 「FATHERS」に追記あり。 プーン役のAsda Panichkulは元MTVアジアの人気VJで東南アジアでは有名人。 ユク役のNat Sakdatornはタイのタレント発掘番組で優勝した実力派シンガーソングライター。

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