「警察署長」 スチュアート・ウッズ先日UPしたブログ記事を書く際、若者ばかり33人を殺害したジョン・ゲイシーについての記事を読んでいて、そういえば同じような事件を題材にした小説があったわね、とおよそ30年ぶりに再読してミタ。(当時はハードカバーで読んだと記憶)
とはいえこちらは本格的警察小説です。
1920年冬、ジョージア州の田舎町デラノの郊外で若者の全裸死体が発見された。就任間もない初代警察署長ウィル・ヘンリー・リーは、秘密結社K・K・Kの犯行と見て捜査を開始する。
調査の末、やがてあある人物が浮かびあがるが、そのときウィル・ヘンリーを思わぬ事件が襲った!
南部の小都市を舞台に、40数年に及ぶ殺人事件を多彩な登場人物を配して描く大河警察小説。アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞受賞作。物語は1919年から1963年までの44年間に三代の警察署長にわたる大事件を描く。
1920年代、初代署長の「ウィル・ヘンリー・リー」、40年代「サニー・バッツ」、60年代「タッカー・ワッツ」という三部構成になっている。
40年にわたる「事件」をメインストリームに、人種差別問題や政治などいろいろな要素が複雑に絡み合う。
南部の架空の田舎町デラノ、おらが町にもそろそろ警察が必要じゃないか、と町の有力者が提案する。
その”有力者”:頭取のヒュー・ホームズは、綿花農場主のウィル・ヘンリー・リーを署長にする。
軍隊経験もないリー、実務や経験より人柄を見込んでの抜擢であった。
(この人事が悲劇のはじまり。それがわかるのは40年後)
警察ってこんなかんじで始まったんかあ・・・と興味深かった。
のどかな田舎町も町の発展と共に秩序やルールが必要になって来る。
その田舎町で若者の全裸死体が発見される。
リーにとって初めての死亡事件。
リーは地元紙の主筆に事件のことを話す。すると主筆は
――若者は性的暴行を受けたのかね?
――え?
――誰かにおかまを掘られたかってことさ。
若い子にそういうことをする連中がいるからね。ウイル・ヘンリーはそんなことをそれまで思ってもみなかったのだった。
たしかにこの時代、南部の田舎町の人たちはそんなもんだろうな。ほおほお。
町医者は自分の手に負えないと、都市部にいる旧友に検視を頼む。
検視を行ったドクターは、被害者の尻の鞭打ちのような跡が左右シンメトリーについていることから、加害者は規則正しさやシンメトリーにとりつかれている者、髪も真ん中で分けられているはず、と言う。
また、単なる鞭打ちではなく「尋問」のやり方であることから、警察関係者の可能性が高い。
へぇ~へぇ~、この時代に今でいう「プロファイル」を関係者はやっていたわけね。ほほぉ。
そしてドクターは、この事件はセクシュアルなものだと断言する。
デラノのようなところでそんなことが起きるなんて信じられない、というウイル・リーにドクターは言うのだった。
――アトランタやニューヨークやパリで起こることはあっても、
ここでは起こり得ないなんてものは何一つないんですこの後第二の若者の死亡事件があり、ウイル・リーはある人物にたどり着く。
誰が犯人かはミステリの真相でも何でもなく、”彼”が犯人であるというのは早い段階で読者に提示される。
犯人を追いつめながら、あと一歩のところでウイル・リーは殉職する。
後にはリーが作成した事件のファイルがひっそりと残される。
それから20年後に偶然サニー・バッツがそのファイルをみつける。
それ以降も同じような若者の失踪事件が起こっているのに気付く。
バッツも犯人に行きつくのだが・・・。
リーの時代に起きた2件の死亡事件、その後の失踪した若者の、年齢も風貌も似通っている。
あ、やっぱりね。こういうのって「極めて限定した好みのタイプ」ってのがあるよね。
誰でもいいってわけじゃないんだよね。
そしてそこからさらに20年後、署長となったタッカー・ワッツもファイルをみつけ、事件の関連性に気づく。
という具合に、事件は未解決のまま時代と共に署長に受け継がれていく。
初代署長ウイル・リーが殉職した時幼かった息子ビリー・リーは、第2部では成人し弁護士となり政界に進出する。
第3部では、この事件がビリー・リーの政治生命を左右することになる。
物語はここから大きく動き出す。
もうここからはノンストップ、読み出したらやめられない!
もうひとつのテーマ、人種差別問題が物語を貫いて描かれる。
物語は虐げられた者たちの歴史であり、同時に紛れもなくアメリカの歴史である。
第一部では選挙権はおろか満足な仕事もなかったが、第三部では選挙権を得、仕事で成功している者も多くいる。
時代は確実に動いていたのだった。
保守的な南部の町にもレズビアンのカップルがちらっと登場する。(第2部)
1部でウイル・リーは”その手のこと”に無知だったが、第3部ではヒュー・ホームズが「こんな小さな町にも一定数のホモはいるが、みなそっとしておいてやっている」と認識しているのが興味深い。
全てが終わり物語の最後にビリー・リーはJFKから電話をもらう。
ビリーのホワイトハウス入りが期待されるが――
第3部の時代設定を1963年にしたのはそういうことだったのかと唸った。
ほろ苦いラストの描写は秀逸だ。
=
今作は1983年にTVドラマ化しCBSで放送された。
日本では1985年にNHKで放送。

ヒュー・ホームズをチャールトン・ヘストン、フォクシーをキース・キャラディンが演じた。
フォクシー=キースは、万歳三唱!をしたいくらいぴったりのキャスティングだった。
あとのキャストは忘れてしまって、今あらためて見てみたら、
ブラッド・デイヴィス(KKK団員サニー・バッツはまりすぎ!)やダニー・グローバーも出てた。
監督は[将軍]のジェリー・ロンドン。
原作ファンにも大満足のドラマだった。
日本ではDVD化されていないようで残念です。
キースの画像貼っとこうっと。
[プリティ・ベイビー]のキースが一番美しくて好き☆
また見て思いきりはあはあしたあい。
【 追記: 2017/08/19 】2017年8月18日、「警察署長」のDVD BOXセット(3巻)が発売になりました!!!(パチパチパチ)
見たい見たい!!
チャールトン・ヘストン
復刻シネマライブラリー
2017-08-18
激しく同意です!!。不気味さ満点でした。
原作もドラマも面白かったです。そうか、もう30年ほどたったのね。
佐々木譲「警官の血」(こちらもドラマ化)は、本作品をパク・・、いやインスパイアされて書かれたものでしたよね。